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《文字起こし》【第399回】発信者情報開示制度。 匿名表現の自由とネット誹謗中傷のバランス 【山田太郎のさんちゃんねる】


2020年5月27日(水)に配信されたこちらの動画を文字起こししてまとめました

  • 今回のテーマについて
  • 発信者情報開示制度とは?
  • 発信者情報開示制度の問題点
  • アメリカの仕組みを紹介
  • 匿名表現の自由とのバランス
  • 今回紹介された時事ニュース

今回のテーマについて

山田さん:
今回は『インターネット上での誹謗中傷』についてです。
人権侵害をどういうふうに考えていくかということで、私がかねてからずっと言ってきました『発信者情報開示制度』がいよいよ本格的に検討されるかもしれない。

ただ、これも何度も言ってるんですけど、一方で表現の自由または匿名表現の自由をどう考えていくのかが、重要なテーマになると思っています。

この発信者情報開示制度そのものについては、我々の方でもともと自民党の知財の調査会でも議論していたところ、インターネット上の誹謗中傷・人権侵害等のプロジェクトチームが立ち上がって、私も役員になってほしいということで、このプロジェクトチームの中に入ることになりました。

結構いろんな議員から私を入れた方が良いと推薦・推奨してくれたようでして、著作権絡みで発信者情報開示に関しては党内で一番やってきたという自負もありますので、発信者情報開示の議論をすると同時にバランスをとって、表現の自由や匿名表現の自由も守っていくか議論しなきゃいけない、非常に難しいプロジェクトになる。

特に今回のインターネット上での誹謗中傷人権侵害等ということで、厳しめの対策が議論されて法改正ということになれば、表現の自由としては結構厳しい状態になるので、この発信者情報開示制度も含めて、今どういう状況にあるのかお伝えしていきます。

発信者情報開示制度とは?

山田さん:
最初は発信者情報開示制度って何?とか、どういうものが対象になるの?とか、そういう話から。

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プロバイダ責任制限法の概要ということで、プロバイダがどういう場合に発信者の情報を開示するのかという法律があります。

このプロバイダ責任制限法で何を守っているかというと、被害者の救済と発信者の表現の自由という、そのバランスを取りたいというのが主旨でありまして、たった4条しかないものすごく短い法律です。

この発信者情報開示っていうのは何かというと、例えば誰かの悪口を書きました、それで書かれた側が傷ついた、でも書いた側が匿名だから、書かれた側は訴えたいと思っても誰が書いたかわからないから、まずその人のことを明らかにしたい、そういう場合にどうするかという話です。

そのためには、プロバイダに対して誰が書いたのかということを開示してもらわないといけない。
プロバイダはそういう請求があった時に、いちいち応じていたらキリがないし、表現の自由ということを考えた場合も守れなくなっちゃうので、プロバイダは基本的に責任を取らなくて良いということを決めている法律です。

ただし、こういう条件の場合には開示しなければならない、ということも定めている。

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権利の侵害があった場合には開示しなければならないということなんですが、権利の侵害というのはどういうことかというと、

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『個人法益の侵害として、民事上の不法行為等の要件としての権利侵害に該当するもの』となっています。

大事なのは社会法益ではありません、社会秩序とかではなく個人法益、つまり個人を守るということなんです。
あくまでも個人法益の侵害、今回の議論の中で誤解されちゃうとまずいのは、刑事としては使えないということ、警察がこの条項を使って、プロバイダに対して開示させるというものではありません。

警察が刑事事件として訴えるためには、令状を裁判所に対してとって、令状に基づいて開示させていくという形になるのでプロセスが違います。

発信者情報開示制度というのは民事上の不法行為、言ったもん勝ち言われたもん負けという状況で言われた方が、訴える等も含めて相手を特定したいという場合に民事上のこととして使われる、しかも権利侵害がないとダメなんです。

例えば興味でもってこの人誰なのか知りたいということでは使えない、あくまでも権利の侵害が行われた、プライバシー侵害だったり、名誉毀損だったり侮辱だったり、そういうことに使われるということです。

ではどういう場合に開示されるのか。

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一つは権利が侵害されたことが明らかであること。
もう一つは損害賠償請求の行使、その他開示を受けるべき正当な理由があること。
つまり権利を侵害されて、開示を請求する正当な理由があるということが揃わないと開示できない。

発信者情報開示制度の問題点

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山田さん:
被害者からすると、2つのことがわからないと発信者にたどり着けない。
一つはコンテンツプロバイダってのがあって、そこでIPアドレスとかタイムスタンプを特定して、それに基づいて次はアクセスプロバイダにいって、氏名と住所がわかる。

だから被害者が発信者を訴えようと思ったとき、裁判を3回やらなければいけない。
仮処分としてまず開示請求でIPアドレスとタイムスタンプを開示してもらって、それに基づいて次は名前と住所を特定できて、発信者を特定できたから損害賠償請求を行う本裁判。

これが日本だと、国内のコンテンツプロバイダでは1~2ヶ月、アクセスプロバイダでは通常6ヶ月から1年かかるということで、一番長いと1年半くらいかかって初めて裁判ができる。

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坂井さん:
補足説明すると、コンテンツプロバイダというのは例えば掲示板とかで、アクセスプロバイダというのはいわゆるインターネットプロバイダ、NTTドコモとかOCNとかそういうところになります。

だから掲示板になんか、例えば「死ね」みたいなものが書かれてた時に、その掲示板の管理者はその書いた人の住所とか氏名まではわからないけど、IPアドレスはわかる。

IPアドレスがわかると、そのIPアドレスをもってドコモとかOCNとかそういうところに行くと、その時間にそのIPアドレスでインターネットしていた人はこの人だよということで、そこで初めて氏名とか住所とかがわかってその人を訴えることができる。

そういう3ステップになっているということです。

山田さん:
しかも日本の発信者情報開示制度は、開示しようとすると相手に通告されるから、逃げちゃったりとか消しちゃったりとか、そういうこともあって捕まりにくいっていうこともあるわけです。

確かに発信者情報開示っていうのはプロセスとして認められているんだけど、非常に煩雑で時間もかかるということで、発信者にある程度有利な状況になっているのは間違いない。

(漫画村等の)海賊版も同じなんですよね。
海賊版の犯人を捕まえるのに、発信者情報開示をしないとわかんない。

ということで今回プロジェクトチームの中では、これだと言ったもん勝ち言われたもん負け、匿名性が非常に強すぎるのではないかということで、もっと発信者の情報を開示しやすいようにできないかということが議論されると思います。

アメリカの仕組みを紹介

山田さん:
次にアメリカの仕組みはどうなっているのかということで、ディスカバリーとサピーナの説明をしたいと思います。

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まずディスカバリーというのがありまして、これは証拠開示手続。
もう1つDMCAサピーナっていう、これは著作権に関するものなんですけど、侵害者情報開示命令というのがあります。

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この2つをセットにすることによって、発信者の情報開示をスムーズに行われるようにしようと。
アメリカではどれくらいで開示されたんでしたっけ?実際あの海賊版のゲームは。

坂井さん:
確か全部で2~3週間だった気がしますね。

山田さん:
そんなもんで開示されるということなんです。
このサピーナとディスカバリーがある理由は何かというと、民事訴訟においては言ったもん勝ち言われたもん負けにしない、あくまでも裁判をする場合についてはフェアじゃなきゃいけない。

だからネットの匿名性は高いんだけれども、侵害行為があるという一定の要件があれば、裁判所が直接開示命令して、早く本裁判ができるようにしようという仕組み。

もう一つ匿名訴訟というのがありまして、ディスカバリーを使うと匿名訴訟ができます。

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日本では例えばネットで侵害行為があったとしても、匿名訴訟は日本では認められてませんから、相手が誰なのかはっきりさせないと裁判すら始められません。

アメリカでは訴状にとりあえず仮の被告名を記載して訴訟して、裁判所が取り上げればディスカバリーによって強制的に令状でもって開示させて、それで本裁判に持っていけるというやり方なんです。

つまりアメリカの仕組みと比べるとやっぱり日本は大変だってことなんですよね。

匿名表現の自由とのバランス

山田さん:
ということで、この発信者情報公開制度っていうのは制度としてあるんだけども、問題はすごく多いということで、この制度をどういうふうに変えていくかが、これから議論になると思いますが、そこでもう一つの問題、これどんどん進めていくと匿名性が無くなっちゃうよね。

これすごい難しいなと思うのは、政治家が話すじゃない今回基本的に、僕も実名でやってるし言われる側なんだよね。

言われる側の人たちだけで議論しちゃうと、開示される側をどう守っていくのかすごく難しい問題で、結構自民党内の今回の議論だけを見てると、どんどん開示させればいいと、被害を被っている人が多いと。

もちろんこれはさっきも言ったように刑事ではないし、たぶん政治家に対するある種の非難だとか批判は対象外ということになると思うけれども、立場的にどちらかというと、開示させちゃえという議論になりかねない。

坂井さんどうですかねこのあたり。

坂井さん:
これはめちゃくちゃ難しいんですけど、僕はやっぱり匿名表現の自由っていうのは、原則として守られるべきなんだろうというふうに思っています。

ただセットで、その発言したものに対して責任を取るということについて考えたときに、どういう責任の取り方があるのかっていうのはいろんなレベルであるので、そこを整理して議論しないとまさに山田さんが言うように、なんでもかんでも開示してしまえ、ということになってしまうんじゃないかなと思います。

そういうところのバランスっていうんですかね、それが非常にやっぱり難しい。
今回でも本当に心配なのは、政治家の人たちが自分たちに対する誹謗中傷についても、この対象に含めようとしてるんじゃないかっていうきらいがあって、それは本当に怖い。

動きが早いじゃないですか今回のこの動きって、めちゃくちゃ早くてですね、たぶんみんな政治家の人たちは超自分事なんですよこれ。

別に与党でも野党でも同じで誹謗中傷にあってるから、だからみんな一致団結して、一気に進めようと思っているっていう感じは見ていて怖いところではありますね。

山田さん:
まず個人法益であり権利侵害であるというふうにしなきゃいけないんで、たぶん政治家に対する批判だとか中傷というのは、この個人法益の権利侵害には本来あたらないだろうということなので、もともと発信者情報開示の第1条で書いてある大原則を崩さなければ、政治家の云々ということろには行かないと思います。

それにしてもやっぱり匿名性というものは今回かなり緩められてしまうかもしれないし、匿名性の自由がなくなるといろんな萎縮効果は起こるだろうと。

ただ本当に今回バランスとって議論していかないと、亡くなった人がいるからというだけの理由でもって、一方的に開示すべきであるというのは違うし、一部では厳罰に処すみたいなことを言ってる議員もいるような感じもするんですけど、バランスをとって議論をしっかりしなきゃいけないということだと思います。

今回紹介された時事ニュース
あとがき

今回の文字起こしは以上ですが、ちょっと長すぎるかなと思ってごっそり省いた部分も結構ありますので、お時間のある方は是非動画の方を見て下さい。
今後も表現の自由や二次元コンテンツがテーマになっている回はなるべく文字起こししていきます、ここまで読んで頂きありがとうございました。


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